Q:日本法人からインド法人へ販売管理ソフトウェアの開発サポートを依頼しています。当該サポートはインド国内で行われており、著作権の移転はありません。技術的な役務の提供と理解していますが、インド国内での役務提供であるため、対価の支払い時には源泉徴収の必要性はないと考えていますが、問題ないでしょう。
A:インド法人への技術役務の提供対価の支払いについては、日印租税条約により所得源泉地が債務者主義となります。ご質問の場合は、債務者は日本法人であるため、当該技術役務の提供は日本の国内源泉所得となります。したがってインド法人への対価の支払い時に10%(租税条約による限度税率)の源泉徴収が必要となります。また支払いの前日までに所轄税務署長に「租税条約に関する届出書」の提出が必要となります。
また、インド法人についても、当該技術役務の提供は日本の国内源泉所得に該当するため、日本で法人税の申告義務があります。通常は還付申告になると考えます。
解説
所得税法の規定
ご質問の技術役務の提供が、日本の国内源泉所得に該当するかどうかは、所得税法上は日本国内で役務提供が行われたかどうかで判定します(所法161①六、所令282三)。所得税法161条第1項第6号の書き出しは、「国内において~」となっており、日本国内で役務提供が行われた場合に、日本の国内源泉所得に該当すると規定しています。このような規定の仕方を「使用地主義」を呼んでいます。
しかしながら、租税条約に上記と異なる定めがある場合は、租税条約が国内法に優先するという規定が存在します(所法162)。よってご質問の場合は、所得税法だけではなく、日印租税条約の規定も確認する必要があります。
日印租税条約
日印租税条約第12条第6では「使用料及び技術上の役務に対する料金は、その支払者が一方の締約国又は当該一方の締約国の地方政府、地方公共団体若しくは居住者である場合には、当該一方の締約国内において生じたものとされる」と規定されています。「支払者=日本法人」、「一方の締約国=日本」を意味します。
したがってこの規定のため、所得源泉地について、使用地主義→債務者主義への置き換えがなされます。そのためインド法人に対する技術役務の提供は、債務者主義により所得の源泉地を判定する必要があります。
債務者(=支払者)は日本法人のため、ご質問の技術役務の提供は日本の国内源泉所得となり、インド法人への支払い時に源泉徴収が必要となります。
源泉徴収税率
所得税法では非居住者に対して国内源泉所得を支払う場合は20.42%の源泉徴収が必要となります。しかしながら日印租税条約第12条第2で、限度税率は10%とされています。
したがって、日本法人はインド法人に対して10%の源泉徴収をして、対価を支払う必要があります。
ただし当該10%の限度税率の適用を受ける場合は、インド法人は日本法人を通じて、対価の支払いを受ける前日までに、「租税条約の関する届出書」を、日本法人を経由して、日本法人の所轄税務署長に提出する必要があります。
インド法人の日本での法人税の申告義務
法人税法でも、所得税法と同様の規定があり、技術役務の提供について債務者主義により日本国内の源泉所得かどうかを判定することとなります(法法138①四、法令138①三、139①三)。
また人的役務提供事業に関しては、PEの有無にかかわらず法人税の課税対象になる旨が定められています(法法141)。したがって、インド法人は日本でのPEの有無にかかわらず、当該技術役務の提供について、日本での法人税の申告義務があります。
源泉徴収は収入額(売上げ)に対して課税され、法人税は課税所得(売上げ-諸経費)に対して課税されます。したがって一般的には源泉徴収税額>法人税額となるため、日本で法人税の申告をすることで、源泉徴収税額の一部が還付されると考えます。
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