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「試算表」をどう活用するか?【③P/L・損益計算書編】


こんにちは。練馬区大泉学園で会計事務所を運営している、税理士の上原啓輔です。

今回は「P/L(損益計算書)編」です。

専門的な会計用語は極力控え、経営判断に直結させるための「実践的なP/Lの読み方」を解説します。

「毎月の売上目標はクリアしているのに、なぜか手元に利益が残っている感覚がない」

「税理士から試算表が送られてきても、一番下の『利益』の欄しか見ていない」

「経理作業は会計事務所に丸投げで、決算直前にならないと黒字なのか赤字なのか分からない」

事業が本格的に回り始めた経営者様から、このようなお悩みをお聞きします。

創業期を乗り越え、売上が着実に伸びているフェーズだからこそ、「売上」という分かりやすい指標だけでなく、「利益」がどこから生まれ、どこへ消えていくのかを正確に把握しなければなりません。

B/S(貸借対照表)が「ある時点の会社の財産と借金の写真」であるのに対し、P/L(損益計算書)は「1ヶ月間、あるいは期首から今日までの期間における成績表(動画)」です。

会社がいくら売り上げて、何にいくら経費を使い、最終的にいくら手元に残ったのか(儲かったのか)が、一番上から下に向かって引き算の形式で並んでいます。

P/Lを読む上で最も重要なのは、「利益」と一口に言っても、実は「5つの異なる利益」が存在するという点です。

まずはこの5つの利益の意味をざっくりと理解しましょう。

売上総利益(粗利:あらり)

売上高から、商品を作るために直接かかった費用(売上原価)を引いた利益です。

「商品やサービスそのものの魅力・稼ぐ力」を表します。

まず一番に確認する数字です。

営業利益

売上総利益(粗利)から、販売費および一般管理費(人件費、家賃、広告費、通信費など、会社を運営するためにかかった経費)を引いた利益です。

「本業でどれだけ稼げたか(会社の実力)」を表します。ここがプラスであれば、本業のビジネスモデルは成立していると言えます。

経常利益

営業利益に、本業以外の収益(助成金や利息など)を足し、本業以外の費用(銀行への支払利息など)を引いた利益です。

「会社の普段の総合的な実力」を表します。銀行が融資の審査をする際、最も重視するのがこの経常利益です。

「ケイツネ」と呼んだりもします。

税引前当期純利益

経常利益から、その年だけ特別に発生した収益(不動産の売却益など)や損失(災害による損失や、不要な機械の廃棄損など)を足し引きした利益です。

文字通り、税金を計算する直前の利益です。

⑤当期純利益

税引前当期純利益から、法人税などの税金を差し引いた、最終的に手元に残る利益です。

これがプラスであれば黒字、マイナスであれば赤字決算となります。

社長が毎月チェックすべきなのは、上から3つの「①売上総利益(粗利)」「②営業利益」「③経常利益」です。

ここから先は、この3つの利益に焦点を当てて解説していきます。

P/Lを見る際、多くの社長は一番上の「売上高」に目を奪われがちです。

しかし、経営において売上高と同じくらい、あるいはそれ以上に大切なのが「売上総利益(粗利)」です。

売上総利益(粗利) = 売上高 – 売上原価(仕入や外注費)

なぜ「粗利」が重要なのか?

会社を運営するための人件費や家賃といった固定費は、すべてこの「粗利」の中から支払われます。

つまり、いくら売上が高くても、原価が高すぎて粗利が少なければ、会社を維持することはできません。

例えば、以下の2つのケースを比較してみてください。

  • A社: 売上1,000万円、外注費800万円 → 粗利200万円(粗利率20%)
  • B社: 売上 500万円、外注費100万円 → 粗利400万円(粗利率80%)

売上高はA社の方が2倍ですが、自由に使えるお金(粗利)はB社の方が2倍もあります。

もし両社とも、人件費と家賃で毎月300万円かかっているとしたら、A社は100万円の赤字、B社は100万円の黒字となります。

IT・サービス業における原価とは?

物販業であれば「商品の仕入代」が原価になりますが、IT系(Web制作やシステム開発)やコンサルティングなどのサービス業の場合、「外注費」が主な売上原価になるケースが多いです。

自社内で完結できる案件が減り、外部のフリーランスやパートナー企業に業務を丸投げ(外注)するようになると、売上は伸びるのに粗利率がどんどん低下していきます。

社長が毎月見るべきは「粗利率(売上に対する粗利の割合)が落ちていないか?」という点です。

もし粗利率が下がっているなら、「値引きをしすぎている」「外注費が高騰している」といったサインかもしれません。

粗利の次に確認すべきは、そこから「販売費及び一般管理費(販管費)」を差し引いた「営業利益」です。

販管費とは、いわゆる「固定費」と呼ばれるものが大半を占めます。

  • 社長や従業員の給料、賞与(人件費)
  • オフィスの家賃、水道光熱費
  • 広告宣伝費、接待交際費
  • 通信費、消耗品費など

従業員5名規模で最も重いのは「人件費」

例えば従業員が5名ほどの規模になると、販管費の中で最も大きな割合を占めるのが「人件費」です。

このフェーズでは、社長ひとりのマンパワーで稼ぐ段階から、組織の力で稼ぐ段階へと移行しているため、人件費のコントロールが経営の要になります。

ここで経営分析の指標として知っておきたいのが「労働分配率」です。

これは、「稼ぎ出した粗利のうち、何%を人件費(役員報酬や法定福利費も含む)に充てているか」を示す指標です。

労働分配率(%) = 人件費 ÷ 売上総利益(粗利) × 100

業種にもよりますが、IT・サービス業などの場合、一般的に労働分配率が50%〜60%程度に収まっているのが健全とされています。

もしこれが70%や80%を超えている場合、「稼いだお金のほとんどが給料に消えてしまい、会社に利益が残らない(新たな投資ができない)」という状態です。

「利益が出ない」と悩む会社の多くは、この労働分配率が高すぎる傾向にあります。

固定費は、少ない方が良い

家賃やリース代、定額のシステム利用料などの固定費は、売上がゼロでも毎月必ず発生します。

「今月は営業利益が赤字だったから、来月は交際費や消耗品費を削ろう」と考える社長は多いです。

こうした変動する経費を削るよりも、不要なサブスクリプションを解約する、使っていないオフィススペースを見直すといった「固定費の削減」の方が、営業利益の改善には効果があります。

税理士から送られてくる試算表のP/Lを読む際に、「実態とのズレ」が生じやすいポイントがいくつかあります。

落とし穴①:減価償却費が月次に反映されていない

車や高額なパソコン、システムなどを購入した場合、その代金は購入した月に一括で経費になるわけではなく、数年に分けて経費化されます(減価償却)。

会計事務所によっては、月次の試算表では減価償却費を計上せず、決算の月に1年分をまとめてドカンと計上する処理をしていることがあります。

これを忘れていると、「毎月の試算表ではずっと黒字だったのに、決算月に突然多額の経費が落ちて赤字になった」という事態を引き起こします。

落とし穴②:在庫(棚卸し)の調整がされていない

商品の在庫を持つビジネスの場合、売上原価は「期首の在庫+当月の仕入-期末の在庫」で計算されます。

しかし、毎月正確な棚卸し(在庫数のカウント)を行うのは手間がかかるため、多くの小規模企業では「仕入れた金額をそのまま当月の原価」として処理し、決算の時だけ正確な棚卸しを行っています。

この場合、月次の試算表上の「粗利」は実態と大きくかけ離れている可能性が高くなります。

正確な月次P/Lを見るためには、月末のおおよその在庫額だけでも会計事務所に報告し、反映してもらう必要があります。

落とし穴③:売上と入金のタイミングのズレ(発生主義)

前回のB/S編でも触れましたが、P/L上の「売上」は、お金が入金された時ではなく「商品やサービスを提供した時(請求書を発行した時など)」に計上されます。

「P/Lでは利益が出ているのに通帳にお金がない」というのは、会計事務所のミスではなく、この「計上タイミングのズレ」が原因です。

もし経理を会計事務所に丸投げしていると、このズレの感覚が鈍りやすいため注意が必要です。

経理を丸投げすること自体は業務効率化のために推奨されますが、「自社の月次試算表が、どれくらい実態を正確に表しているか」は、一度担当の税理士に確認しておくことをお勧めします。

P/Lの構造が理解できたら、次はその数字を「未来の経営判断」に活かしましょう。

そのためのツールが「損益分岐点(そんえきぶんきてん)売上高」の把握です。

損益分岐点売上高とは、「利益がちょうどゼロになる(赤字でも黒字でもない)売上高」のことです。

つまり、「最低限、月にいくら売上を作れば会社が回るのか」というボーダーラインです。

損益分岐点売上高の計算方法

損益分岐点売上は、この算式で計算します。

固定費 ÷ 限界利益率(または 固定費 ÷ (1 - 変動費率)

例えば、

  • 毎月の固定費(人件費や家賃の合計)が 300万円
  • 自社の平均的な粗利率が 60%(0.6)だとします。

これを式に当てはめると、

300万円 ÷ 0.6 = 500万円

つまり、この会社は「毎月500万円の売上を立てれば、利益はプラスマイナスゼロになる」ということが分かります。

もし今月の売上が600万円であれば黒字ですし、400万円であれば赤字です。

「もう1人雇うか?」「広告費を増やすか?」の意思決定

この損益分岐点の考え方が分かると、経営判断に明確な基準が生まれます。

「新しく従業員を1人雇いたい。給与や社会保険料で毎月40万円の固定費が増える」という場合。

先ほどの計算式に当てはめると、

40万円(増える固定費) ÷ 0.6(粗利率) = 約67万円

つまり、「新しい従業員を雇うなら、毎月最低でも+67万円の売上を作らないと、会社の利益は今より減ってしまう」という具体的な目標数値が導き出せます。

なんとなく「忙しいから人を雇おう」「売上を伸ばしたいから広告を出そう」と決めるのではなく、P/Lの数字を根拠に「これをやったら損益分岐点がどう動くか」をシミュレーションできるようになれば、経営の安定感は飛躍的に高まります。

3回にわたって試算表(基本編、B/S編、P/L編)の読み方を解説してきました。

今回解説したP/L(損益計算書)のポイントをまとめます。

  • 売上だけでなく、5つの利益(特に「粗利」と「営業利益」)をチェックする
  • 粗利率の低下は要注意。外注費や値引きをコントロールする
  • 従業員5名規模は「人件費(労働分配率)」のバランスが最重要
  • 経理丸投げの場合は「実態とのズレ(減価償却や在庫)」に注意する
  • 損益分岐点売上高を把握し、採用や投資の判断基準にする

試算表のP/Lは、決して「今月いくら儲かったか」を確認するためだけの過去の報告書ではありません。

自社の稼ぐ力を分析し、いくらまで経費を使っていいのか、次の打ち手をどうするのかを考えるための「未来の戦略図」です。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

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